招き猫
招き猫
江戸中期のこの町は、税が厳しく、皆生きるのに必死で、
皆人情は有るものの、笑顔が有るのは子供だけ、大人たちはいつも空腹に耐えながら
日々汗水たらしてせっせと働いて、たまに出るねずみ小僧の話が唯一の希望だった。
そんなある日、この骨董屋を営む私は金持ちの町奉行に呼ばれ商品の買い付けに向かった。
骨董屋とはいえ今で言えばリサイクルショップ、安く買ってきれいに洗い、時には直して高く売る、その差額を売上にするという単純な商売だ。
この商売に必要なのはまず人脈で、要らなくなったものを買わせてくれる人が居ないと
何も売ることができない、町奉行さんは私の大事なお得意さんだった。
町奉行さんの蔵には、押収品や賄賂の品が多くあり、「こっからここまで全部買い取ってくれ」がいつもの文句だった。
こうゆう品は上に連絡せずに集めて骨董屋に売れば、周りの誰にもバレずに遊ぶ金ができるので骨董屋とは持ちつ持たれつの関係だった。
そんなとき、蔵の奥にある招き猫を見つけた、よく見りゃ色落ちはしているが、凛々しい顔をした招き猫だった。
聞いてみりゃいつからあるかわからないし、なくなっても困るもんじゃないってんで、
他のを高く買うついでにとタダで貰った。
不況の餌食になってしまい、閑古鳥の鳴く骨董屋の店先に
「ちょっとは役に立ってくれよ」と頭をなでながら古びた招き猫を置いた。
数ヶ月かかったが、招き猫はちゃんと仕事をしてくれたようで、
少しずつ骨董屋として町に店の名前が広まり、
閑古鳥が鳴いていたことが思い出せないくらい店内は活気に満ちていた。
もう自分から古くなったものを買取に行かなくても、お客さんの方から物を持ってきて、「これを買ってくれ」と言ってきてくれた。
そんなある日、隣町の骨董屋が噂を聞きつけ、私の店に買い付けに来てくれた。
「この招き猫買い取らせてもらっていいかな?私もあやかりたくってね。」
気の大きくなっているせいか、私は二足三文でそれを手放した。
その夜いつもどおり床に就き、早朝に目を覚ませば、外がどうやら騒がしい、
嫌な予感がしたもので店の金庫を開けてみれば、あるはずの貯金がすっからかんで、
町にはねずみ小僧の噂
どうやらあの招き猫、
閑古鳥を追い払っただけじゃなく、
ねずみ小僧まで追い払っていたようだ。